大腸菌RNAファージのRNA複製酵素遺伝子を利用して、最も単純な自己増殖性RNAゲノムの構築を試みた。このために、RNAファージQβのRNA複製酵素(レプリカーゼ)β-サブユニット遺伝子をMDV-1 RNA内部に挿入した、キメラRNAの作製を行った。β-サブユニットは触媒機能を持つこと、MDV-1 RNA自身がQβレプリカーゼに対して非常に高い鋳型活性を持つこと、そしてMDV-1 RNAの複製にはβ-サブユニットと2種類の宿主因子だけでよいことから、この系は本研究目的に適していると判断した。 以下の要領で実験を行った。 1.キメラクローンの作製:QβファージRNAのクローン化cDNAを鋳型にして、リポソーム結合部位を含めたβ-サブユニット遺伝子全領域をPCR法で増幅した。この増幅DNA断片を、MDV-1 cDNAを持つプラスミドに制限酵素部位を利用してクローニングした。 2.細胞内でのレプリカーゼ発現:細胞内でMDV-1/β-サブユニット・キメラRNAの転写を誘導して、レプリカーゼ発現を検討した。上記1のプラスミドを持つ大腸菌の溶菌液を用いてMDV-1 RNAの複製を調べたが、同RNAは増幅しなかった。また、β-サブユニット蛋白質合成も確認できなかった。原因として、RNA転写はT7RANポリメラーゼによって開始される実験系であるが、同酵素の誘導が不十分であった可能性が考えられた。 今後の課題として、試験管内で転写合成したキメラRNAを用いて、メッセンジャーRNA活性およびレプリカーゼに対する鋳型RNAを検討する必要がある。
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