生体内の細胞は機械的な刺激、例えば個体の運動に応じたダイナミックな張力、呼吸や拍動に応じたサイックリックな張力、成長に応じた非常にゆっくりとした張力などを絶えず受けている。本実験は、そのような張力にさらされた生体内の細胞がどのように反応しているのかを実験的に示したものである。今回新しく開発した培養細胞伸縮装置を用いて実験を行う対象に選んだのは血管内皮細胞である。それはこの細胞が非常に反応性に富み、元々扁平な細胞なので形態変化も見やすいからである。一般に、培養細胞にサイクリックな伸縮刺激を与えると、伸展方向と直交する方向にストレスファイバー(アクチン線維の束)が形成され、細胞自体もこのストレスファイバーの方向に向くことがいくつかの研究室から報告されてきた。しかしそれらの実験は長時間にわたり、かつ伸展率も20%ぐらいにとどまっていた。 私は細胞がよりアクティブな状態にある伸縮直後の様子を、広いレンジの伸展率で調べてみることにした。すると驚くべき事に細胞内のストレスファイバーは伸展方向に対して直交する方向ではなく、斜めの方向に配向する事がわかった。そしてその傾きは伸展率に依存して決まり、それらは次のようなきれいな直線関係を示すことがわかった。すなわち、伸展率をr(%)、[伸展方向に対して直交する線]に対する角度をθ(度)とすると、θ=30.2-0.08rとなり、θの値は0にはならないことがわかった(伸展率0〜110%の範囲:参考論文1)。細胞自体の方向性は先行するストレスファイバーの方向に追従するように決まってくるようである。
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