ミエリン構成分子の同定が進んでいるが神経細胞・グリアの相互作用を含め髄鞘の形成機構並びにその病態生理についてはまだ不明の点が多い。本計画では髄鞘形成、軸索機能維持にそれぞれ障害を有するTr-ncnpマウス並びにgracile axonal dystrophy(gad)マウスを使用して、1)各マウスの病態を生理学的に確立するとともに2)遺伝子異常から発病にいたる分子機序を解明し、さらに3)神経機能の発現・維持に関わる新たな分子群の同定を行ない、4)神経細胞、特に、軸索機能の再生にむけた基盤技術を開発することを目的とした。 Tr-ncnpマウスについては末梢神経ミエリンの主要構成蛋白であるPmp22の遺伝子のエクソン4を含む欠失が原因であることを確認した。この結果、全長160個のうち内部の47個のアミノ酸を欠失したtruncated Pmp22蛋白が脱髄を主体とする病態形成に関与することが示唆された。さらに超微形態学的観察、TUNEL検査等を行いシュワン細胞のアポトーシスが亢進していることを見出した。 gadマウスについてはすでに連鎖解析によりD5Mit197とD5Mit151間の0.8cMの領域にGAD遺伝子が存在する可能性の高いことを見いだしていたが本年度は前記2個のマーカーを用いた酵母人工染色体(YAC)ならびに大腸菌人工染色体(BAC)ライブラリーのスクリーニング、得られたクローンからのwalkingを引き続き行ない当該領域のうち約890kbをカバーするYAC contig、BAC contigを完成した。またエクソントラップ法を用いて前記contigから複数のエクソン候補配列を単離し、その解析を行った。現在のところ単離された候補配列の中には目的のgad遺伝子は含まれていない。
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