ミエリン構成分子の同定が進んでいるが神経細胞・グリアの相互作用を含め髄鞘の形成機構並びにその病態生理についてはまだ不明の点が多い。本計画では髄鞘形成、軸索機能維持にそれぞれ障害を有するTr-ncnpマウス並びにgracile axonal dystrophy(gad)マウスを使用して、1)各マウスの病態を生理学的に確立するとともに2)遺伝子異常から発病にいたる分子機序を解明し、さらに3)神経機能の発現・維持に関わる新たな分子群の同定を行ない、4)神経細胞、特に、軸索機能の再生にむけた基盤技術を開発することを目的とした。 Tr-ncnpマウスについては昨年度原因として同定した末梢神経ミエリン蛋白、Pmp22、遺伝子エクソン4を含むゲノムの欠失が実に17kbに及ぶことを確認し、ゲノム切断部分の遺伝子配列を同定した。さらに、得られた遺伝子配列を利用し、野生型、ヘテロ接合体、ホモ接合体を1回の試行で判別できるゲノムPCR法を確立した。また、Pmp22蛋白特異的抗体を第3者より入手しTr-ncnpマウスにおける発現を検討し、ヘテロ接合体、ホモ接合体ではともにその発現が低下していることを見いだした。 gadマウスについてはすでに連鎖解析によりD5Mit197とD5Mit151間の0.8cMの領域にGAD遺伝子が存在する可能性の高いことを見いだしていたが本年度は昨年度に引き続き前記2個のマーカー間をつなぐ酵母人工染色体(YAC)ならびに大腸菌人工染色体(BAC)contigの作製をめざした。当初完成されたと思われたYAC contig中にMbサイズの欠失があることが新たに判明したが、そのなかに目的のgad遺伝子が存在する可能性の高いことを示唆する結果を得た。
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