光計測法を覚醒条件下の動物に適応するための基礎実験として、眼球運動課題を用いた実験を行った。眼球運動は四肢の運動に比べて体動が生じにくく、また眼球運動課題はその制御と動物の訓練が容易で、基本的な課題トレーニングで複雑な課題のバリエーションを作りだすことができる。上丘はサ-ケッド制御の中枢としてその活動様式は非常によく研究されている。さらに上丘の活動制御には大脳基底核(尾状核-黒質網様部系)が重要な働きをしているが、もう一つの運動制御系である小脳がサッケードのコントロールにどのような役割を果たしているかはまだわかっていない。今回はサルの小脳外側核とその周辺領域で、サッケード関連ニューロンの特性を細胞外記録法で調べた。多くのニューロンは、自発および課題関連サッケードで全方向性にバースト発火した。一部に方向選択性を示すニューロンがあった。全方向性バーストニューロンについて、サッケードの開始、終了および最大角速度と、バーストの開始、終了およびバーストピークとの時間関係を調べた。これらのうち最も相関が強かったのは、サッケードの開始とバーストピークであった。バーストピークはサッケードの大きさに依存せず、ほぼ一定してサッケードの開始に5-10ms先行した。以上の結果から、このニューロンはサッケードの時間特性の決定に関与していることが示唆された。現在のところ、このニューロンが上丘に投射しているという解剖学的、電気生理学的証拠は得られていないが、その可能性は十分考えられる。前頭眼野および補足眼野は上丘に直接投射し、上丘の活動を制御していると考えられる。今回の実験で得られた小脳のサッケード関連ニューロンと前頭眼野ないしは補足眼野および基底核の各ニューロンの発火様式の時間特性を比較することによって、大脳皮質、基底核および小脳からの入力が上丘でどのように統合されているか解明されると期待できる。
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