研究概要 |
世代を経るとゲノム内の3塩基反復配列が伸長することが原因であるヒトトリプレットリピート伸長病では、機構は不明だが、精子形成時にトリプレットリピートが不安定となって伸長すると考えられている。世代交代に伴う様々な遺伝的変化(世代間負荷)の研究に実験動物を使用することが実験期間の短縮(加速化)に有用であるが、この疾病の場合、精子レベルでの実験を実現すれば更に加速化・使用動物の数の削減可能である。まず、トリプレットリピート伸長病の遺伝子とその周辺領域の遺伝子を、精巣内の精子形成期の細胞(精母細胞から精子細胞等)に効率良くin vivo導入する方法を検討する。更に、精子中の導入遺伝子内のトリプレットリピートの伸長を調べることで、その伸長に必要な領域遺伝子が同定できるか検討し、導入遺伝子の不安定性を検出するための新たな世代間負荷動物実験系の確立を目的として本研究をおこなってきた。 平成8年度には、1,2-dimyristyloxypropyl-3-dimethyl-hydroxyl ethyl ammonium bromideとcholesterol(1:1)からなるリポソームにDNAを混合したものをマウスの精巣に直接注入することで精子に遺伝子導入を試みた。平成9年度には、精巣へ直接DNAを注入後、電気パルスを与えelectroporationによる遺伝子の導入を試みた。実際には、オプティマイザーBTX500を用いて精巣の抵抗値を実測後最適電圧を設定し、ピンセット型電極で精巣をはさみ、BTX T-820を用いて50msecのパルスを8回与えることによりelectroporationを行った。精巣上体尾部から回収した精子をプラスチックシリンジと三方活栓、濾過滅菌用カートリッジを用いて洗浄後、抽出したDNAを用いてPCR法にて導入遺伝子が検出された。いずれの方法でも、少なくとも注入後4日目以降の精巣上体尾部の精子中に導入遺伝子が検出された。また、少量の精液を直接テンプレートに用いることも可能であった。これらの方法を用いて、長さを変えたCCGトリプレットリピートをもつ導入遺伝子をトランスフェクトし、精子中のトリプレットリピートの伸長をPCR法にて検索したところ、伸長と短縮の両方向へのゆらぎが見られた。アーチファクトの可能性は排除できておらず、導入された遺伝子が精子の遺伝子に組み込まれている確証は得られていないが、今後さらに検討・改良を加えることにより今回の方法が世代間負荷動物実験系として発展する可能性は十分に示唆された。
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