研究概要 |
癌転移は多くのプロセスから成る複雑な現象であるため、単純なin vitroの実験系での解析は困難である。マウス肺癌(Lewis肺癌)モデルを確立して、転移の分子機構の研究を行った。Lewis肺癌細胞株を尾静脈および皮下に繰り返し注入し、高転移亜株を樹立した。これらの亜株の、培養系における悪性形質を検討した。さらに、DNA microarrayを用いて発現遺伝子のプロフィールを比較し、転移関連分子を同定した。その結果、MMP-9プロテア-ゼの分泌量と細胞内局在、インテグリン分子との結合などの点において高転移酵素で亢進がみられ、細胞内局在にも明らかな差が認められた。また、ガングリオシドGM1の発現レベルが高転移性亜株で低下し、低転移株のGM1のノックダウンによって転移性が亢進することが分かった。microarrayによって、高転移性亜株で発現が増強する分子として、RhoファミリーGAPであるARAP3、Arhgap29、インテグリンβ2、β3、CCNファミリーCyr61が同定された。これらの分子群の癌転移への関与を検討した結果、Cyr61、インテグリン、ARAP3が複合体を形成して低分子量Gタンパク質Rac1の機能を制御していることが判明した。Rhoファミリーに属するRhoA,cdc42の活性の変化は認められなかった。さらに、リコンビナントのCyr61の結合によって、Aktの活性化とPIP3の膜移行が惹起されることも明らかになった。
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