研究概要 |
研究計画の目的は,モントリオール大学のRajendra Singh教授をリーダーとする研究グループが提唱するWhole Word Morphology(WWM;一体性形態論)という形態論理論(語というものは,内部構造を持たない一体のまとまりである)が普遍的な妥当性を持つかどうかを,系統の異なる日本語(特に複合語形成)について検証し,その結果に基づき,より精度の高い普遍的理論に向けて修正を提案することである。研究代表者(日本語)と研究分担者(ベンガル語)は,まず,相手方の言語の形態論に関する研究文献を検討し,その独自性を理解するよう務めた。同時に,各々の母語について複合語形成のプロセスを細部にわたって検証した。研究代表者は,The Oxford Handbook of Compoundingに所収の"Isolate:Japanese"において,日本語には語彙化されて生産性のないものから,レキシコンあるいは統語構造で自由に作られる生産性の高いものまで様々な複合語が存在することを述べたが,とりわけ,統語構造において名詞が述語に編入される複合語形成がWWM理論にとって反証となる可能性を指摘した。他方,研究分担者は,ベンガル語の複合語およびそれに付随する形態論・音韻論の研究をまとめ,その幾つかを海外で発表した。とりわげ"Bengali Compounds,Are They All Seamless?"(Indo-Aryan Linguistics)において,ベンガル語の複合語が内部構造を持たない一体のものであるかどうかを吟味し,内部構造を持つものがあることを示唆した。現在,日本語の統語的複合語形成と類似の現象がベンガル語にないかどうかを調査中である。
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