研究概要 |
本研究では昨年に引き続き,金属多核クラスター錯体の合成においてビルディングブロックとして働く,リジッドな有機配位子を新たに設計することで,従来困難であったクラスター構造の精密制御を可能とし,特異な電子状態および磁気的性質を発現する,新しい金属多核クラスター錯体を創出することを目的として研究を行った。 今年度はトリアゾール環を複数連結した多座配位子を新規に合成し,これと第一遷移金属イオンを反応させることで,コバルト10核・マンガン10核錯体・7核錯体・5核錯体などの多核クラスター分子を多数合成することに成功した。得られた錯体については単結晶X線結晶構造解析を行い,その分子構造を明らかにするとともに,磁化率測定によって,クラスターの磁気的性質について研究を行った。 またトリアゾール環をもつ配位子と,マンガンイオンや鉄イオンを任意の比率で反応させることにより,互いにほぼ等しい構造を持つ鉄5核錯体・マンガン5核錯体と,鉄・マンガンヘテロメタル5核錯体をそれぞれ単離することに成功した。これらの錯体はいずれも3つの金属イオンが酸素原子で互いに架橋された構造を持つ。磁化率測定の結果,これらの錯体はいずれも金属イオン間に反強磁性的相互作用が発現しており,金属イオンのスピンが互いにフラストレートした興味深い磁気構造をもっていることを明らかにした。 さらにイギリス・グラスゴー大学のL.Cronin教授との共同研究により,クライオスプレー質量分析装置を用いてクラスター錯体の生成過程について研究を行った。その結果,グリッド状コバルト・鉄9核錯体など種々のクラスター錯体について反応溶液中の中間生成物の構造を同定することに成功した。 現在はマンガン・鉄5核錯体において,異種金属イオンの導入が磁気構造に与える影響について検討を行うとともに,ヘテロメタル多核錯体が示す多段階酸化還元挙動についても研究を行っている。
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