回転分子モーターF_1-ATPaseのATP加水分解活性が、0.003%(w/v)SDS(sodium dodecyl sulfate)の存在下で3-4割上昇することを見いだした。これ以上SDS濃度を上げると、活性が下がりはじめる。活性上昇には、SDSがその場に存在する必要があり、SDS preincubationでは効果がない。また、F_1はATP存在下でだんだん阻害状態に陥り、定常状態(活性型と阻害型が平衡)での平均活性は初期の数分の一に下がるが、SDSがあると定常状態活性が大きく上昇した。一方、回転特性に関するSDSの影響を調べたところ、無負荷での回転速度(40nm金粒子を付けて測定)もトルク(0.29μmのポジスチレンビーズを2個付け九時の回転速度からの見積もり)もほとんど変わらなかった。かわりに、顕微鏡下で回転する分子の数が数倍に増えた。これらの結果は、SDSが活性型のF_1-ATPaseの割合を増やすということで説明できる。その機作は、まだ不明である。F_1の定常活性を上げることでよく知られた界面活性剤lauryldimethylamine oxideが0.1%を要するのに比べ、SDSは遥かに効率がよく、しかも初期活性も数割とはいえ上昇させる。 すでに回転子であるγサブユニットの回転軸部分を大きく削っても回転能が損なわれないことを報告したが、固定子βサブユニットの中でこの削られたγが接触すると思われる部分を大きく削り取った変異体を作成し、活性があるかどうかを調べる研究を開始した。
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