研究概要 |
鳥類では卵管の精子貯蔵細管という特異構造の中で精子が数週間生存できるという特性がある。一般に,トランスフォーミング成長因子B(TGF)はリンパ球の活動を抑えて免疫応答を抑制する.Toll様受容体(TLR)は微生物のパターンを認識し,細胞の免疫応答を開始させる.トリβディフェンシン(avBD)は抗菌ペプチドで広範囲な種の微生物を死滅させる.本研究は,卵管に精子が貯蔵されているときに,TGFの発現で卵管のリンパ球による精子への免疫的攻撃が抑制されるが,精子は感染防御のためにTLRを発現して微生物を認識し,avBDを産生するという自己の感染防御システムを備えていることを実証することを目指した.卵管で精子が貯蔵される子宮膣移行部または精子を貯蔵しない膣部の細胞を培養し,これに精子を添加したときのTGF-2,-3,-4のmRNA発現を解析した.その結果,いずれのTGF分子の遺伝子も,精子の刺激により子宮膣移行部で上昇するが,膣部では変化しないことが明らかとなった.さらに,精子のTLR発現を解析したところ,TLR2,3,4を含む数種のTLR遺伝子とTLR4が機能するために必要なCDI4遺伝子が発現することを実証できた.また,精子はavBDもavBD-5,-9,-10,-12を含む数種のavBD遺伝子を発現することが明らかとなった.TLR4リガンドであるグラム陰性菌のリポ多糖で精子を刺激するとavBD-9,-10,-12の発現が増加することも明らかとなった.現在,TLR-2のリガンドであるグラム陽性菌成分でも精子を刺激して,これがavBD発現に及ぼす影響を解析している.
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