研究概要 |
農地から溶脱する窒素やリンによる環境汚染は世界各地で深刻化しており,乾燥地域もその例外ではない.本研究は,乾燥地の灌漑農地からのリン流亡の軽減技術開発を目指したものであり,農地からのリン流亡を軽減させるためのリン吸着資材の土壌添加効果,それに伴う作物のリン利用効率・生育改善効果を明らかにすることを目的としている.この成果は有限の資源であるリンの利用効率を高め,持続的な農業生産と環境保全を両立させるための重要な知見となる.21年度は,前年度に引き続き廃棄物として産する二種のリン吸着資材{鉄,カルシウムに富む高炉滓(BFS),アルミニウムに富む下水処理凝集沈殿残渣(WRT)}用い,二つの実験((1)リン保持資材の土壌施与が水稲生育とリン溶脱に及ぼす影響,(2)リン吸着資材の土壌施与が降雨によるリンの表面流去に及ぼす影響)を行い,以下の結果を得た。(1)還元条件下でのリン吸着資材の効果を評価した.リン保持資材添加は,リン溶脱を最大約30%軽減させたが,水稲のリン酸利用効率に影響し,生育が抑制される傾向が認められた.水稲への影響が最も顕著であったBFS添加砂質土壌区では,対照区に対して,水稲の茎葉乾物重,リン含有率が約15%,約50%減少した.WTRのリン溶脱抑制効果はBFSよりも高く,砂質土壌では溶脱量を約30%減少させたが,BFSは栽培中期にリン溶脱が増え,減少割合は10~20%に留まった.これはリンと鉄の化合物が還元条件下で形態変化した結果と考えられた.(2)降雨による表面流去によるリン流亡過程を降水強度,地表面の凸凹状態を変えて降水シミュレーターを用いて検討した.流去水中のリン濃度,リン流去量はWRTの添加によって対照区より30~40%低下したが,BFSでは2~3倍増加する結果になった.リンの表面流去は降水強度や土壌表面の状態も影響し,降水強度が弱く,土壌表面がスムーズな条件で流去量が増大した.BFS添加によるリン流去量の増加については次年度詳細な検討を予定している.
|