1.高等植物由来グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)アイソザイム等の同定 本研究では抗酸化酵素の過剰発現による環境ストレス耐性植物・作物の分子育種を目的とした。近年、動物の主要抗酸化酵素であるGPXが植物にも存在し、環境ストレス応答・耐性に深く関与する可能性が示唆されてきた。また、ゲノム情報データーベースにより、シロイヌナズナにおける新規GPX(GPX8)の存在が示唆された。GPX8の酵素学的性質について検討したところ、GPX8はTrxを電子供与体としてH_2O_2および脂質過酸化物を消去した。また、GFPとの融合遺伝子によるイメージング解析によりGPX8は核に局在することが明らかになった。さらに、yeast two-hybrid systemを用いて相互作用タンパク質を探索したところ、細胞内におけるH_2O_2センサー候補の一つである酵素や幾つかのタンパク質が検出された。よって、GPX8は抗酸化酵素としてのみではなく、シグナル伝達因子としても機能する可能性が強く示唆された。 2.GPXアイソザイム等の過剰発現および発現抑制/遺伝子破壊株の作出 GPX1~8の遺伝子破壊株(KO-GPX)の種子を入手し、KO-GPX7および8のホモ接合体を得た。さらに、各GPXアイソザイムの過剰発現株の作出を進めており、GPX8過剰発現株のT_2世代が得られた。 3.形質転換体の環境ストレス耐性能の評価 昨年度までに、KO-GPX8株はパラコート処理あるいは塩処理に対して野生株よりも高い感受性を持つことを明らかにした。そこで今回は、高温ストレスや植物ホルモン処理に対する感受性を評価したところ、KO-GPX8株は高温ストレスだけではなく、ジャスモン酸やサリチル酸などに対しても高い感受性を示した。今後、GPX8過剰発現株のT_3世代を用いて、各種ストレスおよびホルモン処理に対する感受性を評価する。
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