トリパノソーマはトリパノソーマ科に属する原生生物であり、トリパノソーマ症と呼ばれる様々な病気を引き起こす。その治療方法は、現在のところスラミンやペンタミジンなど極めて限られており、満足な治療法が存在しないのが現状である。地球温暖化に伴ってこのような寄生虫症の拡大が懸念され、医薬品の必要性が高まっている。しかしながら、患者数が収益を上げるほど多くないため、製薬企業がその開発に消極的な希少疾病用医薬品、いわゆるオーファンドラッグに分類される(2005年厚生科学研究費ヒューマンサイエンス総合研究事業報告書)。 そこで本研究は、大学発の抗トリパノソーマ薬剤の開発を目的とした。平成20年度には、2分子、3分子の大環状ポリアミンの金属錯体を適格なリンカーで架橋した多核金属錯体の設計と合成を行った。その結果、分子の12員環テトラアミン(サイクレン)-亜鉛(II)錯体(Zn-cyclen)を、エーテル結合を介して結合させた二核亜鉛錯体が、トリパノソーマに対して強い阻害活性を有していることが明らかになった。現在、キラルなリンカーを導入した二核亜鉛錯体と、それらに対応する他の金属錯体の合成を行っている。
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