トリパノソーマはトリパノソーマ科に属する原生生物であり、トリパノソーマ症と呼ばれる様々な病気を引き起こす。その治療方法は、現在のところスラミンやペンタミジンなど極めて限られており、満足な治療法が存在しないのが現状である。地球温暖化に伴ってこのような寄生虫症の拡大が懸念され、医薬品の必要性が高まっている。しかしながら、患者数が収益を上げるほど多くないため、製薬企業がその開発に消極的な希少疾病用医薬品、いわゆるオーファンドラッグに分類される。 そこで平成21年度は、抗トリパノソーマ薬剤として、2分子、3分子の大環状ポリアミンの金属錯体を様々なリンカーで架橋した多核金属錯体の設計と合成した。12員環テトラアミン(サイクレン)-亜鉛(II)錯体(Zn-cyclen)を、フェニル-アルキルエーテル(ArO(CH_2)_5OAr)リンカーを介して結合させた二核亜鉛錯体が、トリパノソーマに対して強い阻害活性を有していることが明らかになった。 そこで、同様の長さのリンカーや、キラルなリンカーを導入したcyclenダイマーと、それらに対応するニ核亜鉛錯体を合成した。しかしながら、これらの化合物の抗トリパノソーマ活性は非常に弱いことが明らかになった。このことから、上記の二核亜鉛錯体が結合する相手は全くわからないが、2つのZn-cyclenユニットを、(ArO(CH_2)_5OAr)リンカーによって、受容体の結合サイトに合うように配置されている可能性が示唆された。従って、二核亜鉛錯体が結合する生体内高分子のスクリーニングが、今後の課題である。
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