研究概要 |
研究代表者が現在取り組んでいる視覚的注意に関する研究では、視覚探索課題を用いて脳波を計測し、位相同期性分析を行った。その結果、標的項目と妨害項目の類似性が高い非効率的探索処理では、前頭-頭頂間の同期性が高まることが示された(Phillips・武田,査読中)。 しかし、位相同期性分析が示す統計的な有意性は、多重比較の問題を含んでいる。脳波の同期値は、時間軸と周波数帯域と電極部位から算出され、膨大な電極ペアが示される。偽陽性を制御する従来の方法(Bonferroni法)はかなり保守的で、検出力が劣っており有意差が出にくい、というデメリットを持つ。そこで、偽陽性をより強力に制御するために、FDRを制御する多重比較法を用いることが有効であると考えられる。したがって、本研究では、視覚探索課題遂行下の脳波データから得られた同期値の有意性を測るために、Bonferroni法とFDRを制御する3つの方法(BH法、BKY法、BY法)の比較検討を行うことを目的とした。 その結果、BH法とBKY法は、最も高い検出力を保っており、FDR値が安定していた。一方、BY法とBonferroni法においては、FDR値が低く、かなり保守的であった。しかしながら、同期値の分布の様相についてはまだ実証されておらず、データ分布を仮定した検定を用いるのは必ずしも適切ではない。そこで、リサンプリング法による順列検定(permutation test)を行ったところ、先に述べた多重比較法が示す結果と類似しており、多重比較法による解析結果の信頼性が確認された。 さらに、BH法とBKY法の結果は、非効率的探索処理条件において、関心領域の前頭-頭頂間に有意な差がみられた。 したがって、脳波の同期値に対しては、従来の手法よりも、BH法およびBKY法を適用するのが妥当であるということが示唆された。
|