本研究の目的は、研究代表者らが初めて開発した「分子座標系の電子運動量分光」の検出感度の改善を図り、様々な直線分子の分子軌道の形を運動量空間において三次元観測し、量子化学理論が予測する波動関数形との比較を行うことである。これにより、運動量空間という従来とは反転した視点からの電子状態研究、いわば"運動量空間化学"を展開する。 上記の目的に向けて、本研究計画初年度である今年度は、まず、電子運動量分光器の性能を向上させるための予備実験を重ねた。具体的には、電子レンズ系に偏向板を新規設置することにより検出する散乱電子の軌道を補正可能とし、当該分光器の有する検出効率の最適化を図った。また、当該分光器がカバーできるエネルギー領域を広げるため、数種類の幅のスリットを試作し、検出効率とtrade-offの関係にあるエネルギー分解能の比較検討を行った。一方で、(1)2個のチャンネルトロンを購入し、これを真空チェンバー内に設置するための取り付け部品を設計・製作して、イオン検出器として整備した。さらに、(2)コンピュータを購入し、これに荷電粒子のトラジェクトリシミュレーションソフトを導入することにより、最適の実験条件の検討を詳細に行った。これにより、次年度に5個のチャンネルトロンを購入することにより、本研究計画を推進できる見通しを得た。 以上の今年度の研究成果を踏まえて、次年度に必要とする設備を整備し装置をシステムとして完成させ、それ以降次次年度に亘って分子軌道形の三次元観測実験を行う予定である。
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