研究概要 |
本研究の目的は、研究代表者らが初めて開発した「分子座標系の電子運動量分光」の検出感度の改善を図り、様々な直線分子の分子軌道の形を運動量空間において三次元観測し、量子化学理論が予測する波動関数形との比較を行うことである。これにより、運動量空間という従来とは反転した視点からの電子状態研究、いわば"運動量空間化学"を展開する。 上記の目的に向けて、本研究計画二年度目である今年度は、以下の3つの研究を推進した。 (1)新しく開発したチャンネル型イオン検出器システムの設置 (2)H_2O分子を対象とした電子衝撃一重イオン化(e,2e)および二重イオン化(e,3-1)実験 (3)N_2分子を対象とした分子座標系の電子運動量分光実験 (1)のチャンネル型イオン検出器システムは、前年度に詳細な荷電粒子シミュレーションによる設計に基づき、本研究で開発・整備したものである。一方、(2)の(e,2e)および(e,3-1)実験においては、基礎・応用の両面で重要な水分子を取り上げた。本研究は、(e,2e+M)実験の屈曲分子への展開、および二電子密度分布の3次元的な情報を直接的に与える(e,3e+M)実験への展開を図るための基礎研究の意味あいをもつ。また、本研究は、分子を標的とした(e,3e-1)実験の嚆矢でもある。(3)の分子座標系の電子運動量分光実験は、(1)によりシステムとして完成させた(e,2e+M)装置を用いるもので、統計は満足すべきものではないものの、N_2分子の電子運動量分布が等方的ではなく異方性をもつことを明確に示すなどの予備的結果を既に得ている。 以上のように、本研究計画は所期の目的の達成に向けて順調に進んでおり、さらなる成果を得るべく本計画終了予定の平成22年10月初旬まで研究を引き続き進める。
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