膜系の自己組織化について既に、スポンジ・オニオン・ラメラなどのさまざまな相が形成されることはよく知られているが、そのようなトポロジー変化がどのように起きてマクロな構造変化に結びつくのかといった、運動学的な経路の詳細については、ほとんど未解明のままである。特に、膜間に内包された水の存在が、膜系の相転移ダイナミクスにどのような影響を与えるかという問題は、重要な問題でありながらほとんど研究されていないのが現状である。本研究では、ラメラ相という一次元の周期構造が、周期の異なる2つのラメラ相に相分離するという現象について、はじめてそのダイナミクスに焦点を当てて研究を行った。位相差顕微鏡による相分離過程のダイナミクスの直接観察、蛍光標識を内包した2分子膜の共焦点レーザ顕微鏡による3次元観察、顕微ラマン分光による成分の空間分布の測定により、相分離の過程を詳細に研究した。その結果、2つの成分からなる混合系であるにもかかわらず、過渡的に2つの周期の異なるラメラ相のほかに第3の相として水の相が形成されることを見出した。このことは、ラメラ相の膜の間から水を排出し、それをラメラ相の間に吸収するという素過程を経て相分離する際、水の排出と吸収のダイナミクスの非対称性(水の排出は早いが、吸収には長時間を有する)のために、水溜がまず形成され、そののちにゆっくりと水が膜間に取り込まれるという遅い過程が存在することを強く示唆している。これは、2成分系の相分離に過渡的にしろ3相共存が観察された初めての例であり、動的な非対称性の相分離に対する新しい効果として極めて興味深い現象であるといえる。
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