共同研究者である上海応用物理研究所教授の懐平博士に作製していただいた計算プログラムを用いて一次元系及び二次元系における利得スペクトルの計算を行った。計算プログラムに関しては基礎的な部分は作製していただいたものの、細部においては自分で修正し、また、得られた結果に関しての考察は私が中心となって行った。電荷均衡状態におけるキャリア密度依存性から、バンド端にクーロン抑制効果が、フェルミ端近傍にクーロン増強効果のピークが現れることを明らかにした。また、電荷不均衡状態に対しても計算を行った結果、少数キャリアと多数キャリアのフェルミエネルギーそれぞれに対応する部分にクーロン増強効果のピークが分裂することがわかった。その結果、多数キャリアの増加によって起こる電荷均衡状態から不均衡状態への変化にともなって、利得ピークが減少する可能性が示唆された。これは自由粒子近似計算によって得られる結果とは正反対のものであり、今後のデバイス設計においては多体効果を考慮する必要があることが示唆された。 以前発振が観測された垂直配置型電流注入T型量子細線レーザーのドーピング構造を入れ替えた転置垂直配置型電流注入T型量子細線レーザーを作製した。以前の構造においては細線における正孔の閉じ込めエネルギーが小さいために、stem wellから注入される正孔が周辺の構造に広く分布してしまい、その結果内部効率が低くなってしまっていた。ドーピング構造を入れ替えることによって、細線における閉じ込めエネルギーが比較的大きい電子を細線部に局在させ、内部効率を向上させることを目指した。現在、高反射率コートをすることによって以前の試料よりも低閾値での発振が起こることが実験結果から示唆されており、試料改善に成功したことがわかった。
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