研究概要 |
発達期の大脳皮質には、皮質領域・層間で複雑かつ正確な神経回路ネットワークが形成される。その形成過程には、神経軸索を投射するシナプス前細胞と軸索投射を受けるシナプス後細胞の両者の神経活動が関わっていると考えられている。しかし、シナプス前・後細胞それぞれの神経活動が、神経回路形成のどの段階に必須であるかは明らかではない。私は大脳皮質神経回路形成過程における神経活動の関与を明らかにするモデルとして、脳梁線維に着目し、その投射パターン形成機構の解析を行っている。 これまでの研究で、私は脳梁軸索の層特異的な軸索分枝形成に、脳梁投射細胞の神経活動が必要であることを示してきた(Mizuno et al.,2007;Tagawa et al.,2008)。しかしながら、神経活動が脳梁軸索投射パターン形成過程の軸索伸長・分枝形成・シナプス形成のどの段階に必要であるかは明らかではなかった。また軸索投射を受けるシナプス後細胞の神経活動が関与するか否かも不明であった。 脳梁軸索の形態形成過程を明らかにするために、まず私は脳梁軸索の単一軸索をIn vivo電気穿孔法を用いたGFPの遺伝子導入により可視化する方法を確立した。発達過程の解析により、生後9日齢には、脳梁軸索先端が反対皮質の標的領域の表層に到達し軸索の枝分かれを始め、生後15日齢には軸索分枝が広がり成体とほぼ同じパターンになることを明らかにした。次に脳梁線維投射パターン形成におけるシナプス前・後細胞の神経活動の関与を検討した。神経細胞活動は、内向き整流性カリウムチャネルの一つであるKir2.1を強制発現することにより抑制した。現在までの予備実験では、シナプス前細胞の神経活動を抑制は生後9、15日齢での軸索伸張と分枝形成を阻害し、シナプス後細胞の神経活動抑制は生後15日齢での軸索分枝形成を阻害する傾向が得られている。今後これらの結果の検証を進め、脳梁線維投射パターン形成過程のどの段階にシナプス前・後細胞の神経活動が関与するか明らかにしたいと考えている。
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