本年度前半は、前年度に引き続き、台湾・中央研究院歴史語言研究所に訪問学員として滞在した。その間の成果としては、論文(1)「先秦期における「郡」の形成とその契機」を執筆、これを『古代文化』に投稿し、査読の結果当該誌61-4号(2010年)に掲載された。本論文は従来研究の手薄であった先秦時代の「郡」を正面から論じるものであり、近年の出土資料による研究成果に鑑みつつ、文献史料の再検討を通じて、「郡」が形成されてゆく過程およびその契機を明らかにした。また翻訳を担当した張文昌著「中国中古における書儀の発展と『温公書儀』-『朱子家礼』の前奏」は、『高知大学学術研究報告人文科学編』58(2009年)に掲載された。 2009年8月27日に帰国したのちは包山楚簡の研究に専念し、博士論文の一部となる論文(2)「包山楚簡の[宀邑]と[宀邑]大夫-戦国楚の行政単位と「郡県」」(『史林』に投稿予定)を執筆した。本論文は、包山楚簡に見える地方行政単位に関する先行研究を整理し、特に「[宀邑]」に焦点をあて、従来「郡県制」の観点から規定されてきたその性格の捉え直しを図るものである。 2009年12月3日、以上の成果にもとづく博士論文『先秦時代の領域支配』を京都大学に提出、口頭試問を経て、2010年3月23日に京都大学博士(文学)の学位を授与された。本年の研究成果である上記の論文(1)は第四章に、論文(2)は第三章に相当する。
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