ラクタシスチンとサリノスポラミドAは、異なる種類の放線菌から単離された天然物である。これら2つの化合物は類似の構造を有しており、いずれも同様の機構によって20Sプロテアソームを選択的に阻害することが知られている。特に、サリノスポラミドAはラクタシスチンに比べて極めて強力な生理活性を有しており、また抗がん剤として臨床試験が行われている。さらに、サリノスポラミドAは構造的にも、ラクタシスチンと共通のガンマラクタム骨格に加え、ベータラクトンおよびシクロヘキセニル基を含む極めて特徴的な構造を有しているため、合成化学的に非常に興味深い化合物である。以上の理由から、これまでに多くの合成研究が行われてきたが、我々もまた、この化合物のより効率的な合成経路を確立すべく研究に着手した。 まず、(R)-ヒドロキシ酪酸メチルを出発原料として合成を行った。ビシクロ[3.3.0]骨格を活用することで5つの連続する不斉中心を完全に制御し、計20工程にてサリノスポラミドAの合成を達成した。その後さらなる短工程化を目指し、異なる合成経路の開発を行った。その結果、これまでに5工程の短縮に成功し、市販の4-ペンテン酸を出発原料として15工程でサリノスポラミドAを合成することが可能となった。これは、今まで発表された不斉全合成の中で最も短工程の経路である。今後はサリノスポラミドAの大量供給を目指し、各工程の最適化を行う予定である。
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