昆虫では、雌雄の間に交尾を巡り利害の対立(性的対立)が存在する。雄は雌に対して一方的に交尾を試みるため、雌は雄の干渉を避けるような形質を進化させる。その結果、雄と雌の間の拮抗的共進化が生じる。近年の理論研究により、雌の多型化が、雌雄間の拮抗的共進化の進化的帰結の一つであることが明らかになってきた。しかし、野外では、性的対立に起因する雌の多型の維持機構や維持の過程はほとんど実証されてこなかった。本研究では、雌に色彩2型(オス型とメス型)を生じるアオモンイトトンボを用いて、雄の干渉が雌の繁殖成功度に与える影響を定量化するとともに、色彩型間の繁殖形質を比較した。 野外において、雄から干渉を受けやすい多数派の型と受けにくい少数派の型の産卵数を比較すると、多数派の型の産卵数が約30%低くなることがわかった。これは、雄の干渉が雌の繁殖成功度を大きく減少させ、結果として、雌の対抗適応を促す強力な選択圧となることを示している。また、多数派の型の適応度が雄の干渉により選択的に減少させられるという結果は、本種の色彩2型が少数派の有利になる負の頻度依存選択により維持されている可能性を示唆している。 次に、雌の色彩と生活史形質の関連を調べたところ、オス型が小卵多産的、メス型が大卵少産的な形質をもつことが明らかになった。このような繁殖戦略の違いは、頻度依存選択に加え、雌の2型比の進化的動態に影響を与える要因になると考えられる。
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