研究課題である縄文時代網漁の再評価に向けて、第1年度は地理情報システム(GIS)による空間分析の理論構築を中心に、以下の通り研究を実施した。 1全国で最も高い密度で調査が行われているため土錘・石錘など網漁関連遺物の報告点数が最も多い関東地方平野部を中心に、縄文遺跡データベースと網漁関連遺物データベースを整備した。 2同じく関東地方平野部を対象に、高機能GISソフトウェアArcGISを用いて国土地理院数値地図に基づく50mメッシュデジタル標高モデル(DEM)を作成し、さらに紙媒体の都市圏活断層図・土地条件図等をデジクイズして、対象地域の総合的なデジタル地形モデル(DTM)を作成した。 3過去の人間の行動範囲をより正確に推定する方法を開発するために、長野県の木曽谷においてGPS受信機を用いた歩行実験を実施した。そして実験結果に基づいて既存の計算式のパラメータに修正を加え、地表面の傾斜角と歩行者の体重を変数として格納しエネルギー消費量(キロカロリー)を出力する新しい移動コスト計算式を考案した。この成果を考古学におけるコンピュータの利活用と定量分析に関する国際研究集会CAA2009で発表したところ、世界各国の研究者から高く評価された。 4時系列空間分析を行う際に考古学的細別時期の時間幅を標準化する方法を考案し、関東地方平野部の縄文時代網漁関連データに適用して効果を評価したところ、網漁関連遺跡の分布密度という考古学的パターンの時期的変遷を従来よりも詳細に把握することができた。
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