1、研究経過:本年度の研究では、カンボジアの一農村において食事をめぐる交換や売買という日常の生活実践が村落内の社会関係をどのように規律しているかを把握する目的で長期の現地調査に重点をおき民族誌データの収集を行った。現地調査ではある一世帯の家に滞在し、村人の日常生活や儀礼等の1年サイクルの参与観察と聞取調査を行った。生業活動、食材確保と調理、村人同士の何気ないやり取りや会話そして各種儀礼を通し、食事にまつわる村人の実践(食材の確保、加工調理、共食)に留意し、食事をめぐりどのように社会関係が構築されるかを探求した。 2、具体的な調査内容:村では稲作畑作、菜園果樹園作りに漁撈を生業活動の主とし、自給自足的な生活を送っている。その生活には食材や料理をめぐる人間的なやり取りがあり、それが村落社会の一種の規律となっている。村には人間関係の状態を示す表現(食事の分与や共食は「ハック・カン」(親しみ合う)である、現金を介在させた売買であっても「ソーイ・カン」(助け合う)である)が存在し、つきあいや気前の良さで関係の状態や深度を測る。調査により食事が社会関係の不和状態の修復や悪化を導く機会の1つとなることが分かってきた。 3、研究の重要性と意義:(1)研究蓄積の稀少性、(2)食事をめぐる社会関係と現代日本 (1)カンボジア研究自体ももちろん、研究対象であるカンボジアのラオ系クメール人の従来の研究蓄積は皆無的状況にある。しかしカンボジアにはラオ系の人々が人口の約80%を占める州があり、他のクメール人との慣習文化的な混交状態や差異に関する研究はカンボジア及び東南アジア研究にも看過できない。 (2)より長期的には、カンボジアの村での食事をめぐる社会関係の構築方法の提示により、食生活が崩壊したと言われて久しい日本社会の人間関係の再構築にも貢献できると考える。
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