今年度は当初の年次計画で示したように、「プロセスモデルの構築と研究の総合化」を中心に研究を行った。前年度までに行ってきた「農耕地における地下浸透水中の溶存N_2O濃度の決定要因」の中で、溶存有機炭素(DOC)の重要性が明らかになったため、本年度は脱窒N_2O生成の基質となる硝酸とDOCとN_2Oの三者の関係を定量的に示すことを具体的な目的とした。 定量解析には、異なる土壌(灰色低地土と黒ボク土)が充填されたライシメーター施設において本研究の初年度に自ら採取した実測値を用いた。既存の研究から、硝酸とDOCの間に化学量論的関係が存在することが知られており、本研究では、ここにN_2Oのデータを加えて三者の関係を異なる土壌間で比較した。 黒ボク土ライシメーターでは、地下水面が設定させていないため、嫌気環境の形成が進まず、N_2O濃度が灰色低地土ライシメーターよりも小さかった。このため、三者間の明瞭な関係は見られず、代わりに排水量による希釈効果が顕著に見られた。一方、地下水面が存在する灰色低地土ライシメーターでは、嫌気環境の形成が進み、N_2O濃度が一般の農耕地地下水と比べて比較的高かった。そして、硝酸とDOCの逆相関が見られた上に、重ね合わせたN_2Oの分布は特定の範囲に偏って存在した。 以上の結果を、定量的にモデル化するために、DOC/硝酸比を指標として用いた。特定の中庸な比の値の場合にN_2O濃度は最大となることが示された。今後は、現行のIPCC排出係数法に示唆を与えることを目的に、現象の一般化を図る。
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