申請者が昨年度までに実験的に発見したニホンアマガエルの発声行動における同期現象に関する理論研究を行った。具体的には、位相振動子モデルにおける相互作用関数に2次の高調波および位相シフトパラメーターの影響を取り入れることで、実験的に観測した逆相同期状態および同相同期状態の共存現象をモデル内における双安定平衡状態として定量的に説明できることを示した。本研究成果は査読付き学術論文としてPhysical Review E誌に公表した。他方で、フィールドにおけるアマガエル多体系発声行動を明らかにするために、音声視覚化素子"カエルホタル"を用いた音源定位システムを開発した。"カエルホタル"は、マイクロフォン、LED、可変抵抗などから構成される簡単な電気回路であり、ある閾値以上の大きさの音声入力があると取り付けたLEDが発光する点が特徴である。申請者らは、同素子、数十個を少数のアマガエルの周囲に並べ、その発光の様子をビデオカメラで撮影する実験を行った。その結果、室内実験とフィールド調査の両方において、発声中のアマガエルの音源定位および発声タイミング検出が可能であることを示した。さらに、アマガエル発声行動の位相応答関数推定に関する数理モデル研究を行った。具体的には、平成20年度に予備的に推定した位相応答関数を時間遅れ結合振動子系としてモデル化することで、実験結果を定性的に説明できること及びアマガエルの聴覚応答時間を推定できる可能性を示した。振動子モデルを用いて脳の情報処理機構に言及した先行研究はなく、新規性の高い研究成果である。
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