スポロゾイトはマラリア原虫がヒトヘ感染する最初の形態であり、感染阻止のための重要なターゲットである。しかしながらスポロゾイトがどのように肝臓に到達し、さらに肝細胞に特異的に感染できるのか、その機構はほとんどわかつていない。本研究の目的は、網羅的な遺伝子の発現解析および逆遺伝的手法を用いた機能解析により、スポロゾイトの肝臓感染の分子基盤を解明することであり、当該年度は以下の研究を実施した。 マラリア原虫スポロゾイトは蚊の唾液腺に感染することではじめて、肝臓への感染能を獲得する。すなわち肝臓感染に必要な遺伝子の発現が唾液腺感染後に始まることを意味している。そこで当研究室のESTのデータや近年発表されているプロテオームやトランスクリプトームのデータを参考に、唾液腺感染後の発現の増加や、その他のステージのESTと比較してスポロゾイト特異的に発現するものを指標に、ノックアウト候補遺伝子を8つ選択した。 次にこれらの候補遺伝子をノックアウトした原虫の作製を試みた。そのうち5つの候補遺伝子についてはノックアウト株の樹立に成功したが、残りの3つについては現時点でも成功していない。 さらにノックアウトが成功した5つの株について、それぞれ媒介昆虫であるハマダラカやラットへの感染性を確認した。5つの株のうち2つは感染性において野生株と有意な差を示さず、また1つは現在調査中である。残り2つのうち、1つはハマダラカ内部での中腸及び唾液腺への感染が著しく阻害され、肝臓に感染するスポロゾイトそのものがほとんどできなかった。またもう1つは肝臓への感染性が野生株に比べ10分の一に減少した。
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