平成21年度前半は、前年度に引き続き超伝導・常伝導リードに繋がれた量子ドット系における非平衡輸送特性や電子状態について理論的な解析を行った。その結果、この系の非平衡輸送特性が、量子ドット内の電子状態に依存して、大きく異なる振る舞いをすることを示した。特に、量子ドット内にクーロン相互作用は存在するが超伝導リード-量子ドット間の結合が非常に強いため超伝導相関が量子ドット内で支配的な場合、平衡状態で近藤効果は抑えられ、アンドレーエフ反射を反映した2本のピーク構造(アンドレーエフ共鳴状態)がドットの局所状態密度に現れる。ここで常伝導リードにバイアス電圧をある一定以上印加すると、平衡状態で抑制されていた近藤効果が非平衡状態下で増大し、アンドレーエフ共鳴状態のピンニングが生じることを明らかにした。平成21年度後半は交差アンドレーエフ反射に対する電子相関効果の影響について研究した。交差アンドレーエフ反射は、超伝導体に異なる常伝導体を2つ接合しその接合間距離がコヒーレンス長より短い場合に生じる特徴的な非局所輸送過程である。近年の実験結果から交差アンドレーエフ反射に対するクーロン相互作用の影響は大きいと考えられるが、その解析はそれほど行われておらず未解決な問題である。そこで、この問題に取り組むため、量子ドットに1本の超伝導リードと2本の常伝導リードを繋いた系を想定し、この系の非局所微分コンダクタンスを解析した。まず、量子ドット内で超伝導相関が支配的な場合、量子ドット内の準位の離散性により、非局所輸送において交差アンドレーエフ反射の寄与が支配的になることを示した。さらにクーロン相互作用をある程度強くすると、有限バイアスで近藤効果が増大し交差アンドレーエフ反射と絡み合うことで、非局所微分コンダクタンスに異常な構造が生じることを明らかにした。
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