我々の銀河中心(2000光年×1000光年)は様々な天体や星間ガスが密集する領域である。太陽系から銀河中心領域の間に存在する星間物質のために可視光での観測は困難である。一方でX線は透過力が高いだけでなく、高温ガスや高エネルギー加速粒子からの信号を直接観測できる電磁波である。銀河中心は天体が混在する領域であるが、天体に特徴的なエネルギーのX線を分離する手法でその困難を克服し、新しい天体を発見、その正体を解明することが可能である。そのためにはエネルギー分解能と感度に優れた「すざく」衛星を用いることが最適である。 私はX線天文衛星「すざく」による銀河中心領域の観測データの解析研究を行った。まず、X線天体SAX J1748.2-2808の高精度スペクトルから3種類の鉄輝線を分離し、593秒のスピン周期を発見した。SAX J1748.2-2808はこれまで大質量星と中性子星あるいはブラックホールからなる大質量X線連星系ではないかと言われていたが、これらの特徴はむしろ白色矮星の連星系であることを示唆する。この結果を論文にまとめ、投稿し受理された。また、超新星残骸Sgr D SNRから約2000万度の熱的放射が存在することを世界で初めて証明した。新しいX線超新星残骸の発見である。この結果を論文にまとめ投稿し、受理された。さらに、銀河中心のX線スペクトルから硫黄、アルゴン、カルシウムの蛍光輝線を世界で初めて検出した。これらの輝線は銀河中心領域以外からもこれまで発見されておらず、非常に重要な物理的情報を引き出せるだろう。
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