電子の持つ電荷とスピンの二つの自由度を利用したスピンエレクトロニクスにおいて、伝導電子から局在スピシヘの角運動量移行に起因した電流による磁化反転や磁化の自励発振などの多彩な物理現象が注目を集めている。本研究では、垂直磁化を用いたナノサイズ素子におけるスピン注入による磁化ダイナミクスの観測を行い、高速磁化反転技術の確立を目的としている。 本年度は、高速磁化ダイナミクス観測の基礎となる素子作製技術を確立するため、薄膜作製および素子の微細加工プロセスの最適化を行い、ナノサイズ素子におけるスピン注入による磁化ダイナミクスの観測を目指して研究を遂行し、以下の知見を得た。 1.ナノサイズ巨大磁気抵抗効果(GMR)素子におけるスピン注入自励発振の高周波化 垂直磁化膜と同様に、二つの磁性層が反強磁性的に結合した膜では従来材料よりも高い共鳴周波数を有する磁化ダイナミクスを誘起できることが期待される。そこで反強磁性結合したFe/Cr/Fe薄膜を作製しその強磁性共鳴周波数を調べたところ、従来材料が10GHz程度の共鳴周波数であるのに対し反強磁性結合膜では20GHz以上に達することを確認した。さらに、直流電流をGMR素子に印加したところ、反強磁性膜特有の光学モードを電流で誘起することに成功し、低磁場領域でも20GHz以上の高い周波数の発振が可能であることを示した。これらの結果は、ナノサイズ素子作製プロセスの確立に成功したことも示唆している。 2.微細加工した垂直磁化膜における強磁性共鳴定測定 垂直磁化を示すFe/Au多層膜を作製し、その強磁性共鳴周波数の測定を試みた。測定には微細加工法によりコプレーナ導波路形状に加工した試料を用い、ネットワークアナライザーによる反射率測定により評価した。面内磁化膜の試料と同様に、明瞭な共鳴ピークの観測に成功したことから今回用いた手法が垂直磁化膜に対しても有効であることが確認された。
|