400万粒子数からなる大規模なモデル絶縁体系(非線形格子系)の熱輸送現象の分子動力学計算を行い、完全結晶からなるいくつかの系(単純立方格子、fcc格子、相互作用を変えた場合など)において、当該サイズまで熱伝導度が発散的に振舞うことを明らかにした。これまでのところ無欠陥の模型で例外は出ていない。また、平衡状態における熱流の自己相関関数を注意深く調べ、fcc格子の場合にはその長時間部分が従来見られないタイプの強いテールであることを明らかにした。また乱れや欠陥的なサイトを加えた設定で、非常に極端な条件でしか今のところ異常が抑制される振舞いが見られないことを明らかにした。これらはフォノンの振舞いが従来の緩和時間近似だけで捉えがたい長距離的性質を対象にしており、従来の熱輸送の現象論に収まらない高い熱伝導係数を与える現象の発見である。 また、LJ粒子系の融解過程における構造とダイナミクスを調べ、"Hexatic相"と呼ばれる結晶液体間の中間相が臨界熱揺らぎの結果としての固液共存的な伏態であることを明らかにし、その性質を仔細に調べた。従来融解に伴うダイナミクスの研究は少ないが、熱流モード、欠陥拡散、動的不均一性、臨界減速などについて興味ある多くの性質が見られることが分かり、ガラス系におけるダイナミクスとの関連でも興味深く重要である。将来的にもまだ解明すべきいくつもの問題が現れた。これらの結果は近く出版可能であると考えている。他に多結晶のレオロジーにおける粒界の役割を調べ、一部を出版した。 2年の予定だったものが本年度のみで終了となったため、本プロジェクトにおいて誘電的性質についての諸問題に取組む時間的余裕はなくなった。
|