常磁性ランタノイドイオンをタンパク質に固定することで、PCS(pseudo-contact shift)やRDC(residual dipolar coupling)といった常磁性効果が観測され、そこからタンパク質の立体構造情報を得ることが可能である。そのため、常磁性ランタノイドプローブをNMR立体構造解析に応用することで、NOE情報が不足しがちな高分子量タンパク質やその複合体の立体構造解析をより高い精度で行なうことが可能になる。しかし金属イオンを結合しない一般のタンパク質に対してランタノイドプローブを応用するためには、ランタノイドをタンパク質に対して強固に固定できるランタノイド結合タグを用いる必要がある。H20年度にはタンパク質に対するタグの運動性を最小限に抑えたランタノイド結合タグを開発した。今年度(H21年度)には、開発したタグをp62 PB1の複合体立体構造解析へ応用した。p62はオートファジーに関わるタンパク質で、ユビキチン化された基質を認識しファゴソームへと輸送する働きを持つ。p62N末端に存在するPB1ドメインは自己多量体を形成し、基質重合体を形成する役割を持つ。本研究では、p62 PB1の自己多量化を抑制し、1:1のダイマーを形成する2通りの変異体(DR変異体・KE変異体)を作成した。次いでDR単体でのNMR構造を決定し、DRに対してランタノイド結合タグを導入した。DRに固定化した常磁性ランタノイドイオンを用いて、DR/KE複合体に対するPCSを観測し、PCSに基づいたrigid-body docking計算によってDR/KE複合体の立体構造を決定した。
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