研究概要 |
今年度は、研究計画に則り、第一に、認知科学と神経科学の多層的な理論間関係、第二に、心的状態と神経状態の多層的構造の研究を行った。 第一の点に関しては、(1)心理学と神経科学が互いに制約を与えながら相互に概念を発展させる「理論共進化」、(2)心理学と神経科学の理論的説明が、システムの全体を機能的な部分へと再帰的に置換する「機械論的分解」によって達成されることを実証的に明らかにし、さらに、(3)心理学の基礎科学への還元は、隣接する神経科学との間に中間的な研究レベルを展開できるるかに依存し、理論共進化と機械論的分解は、これを可能にすることを提案した。これらの研究結果は、国内学会での口頭発表(「認知のモデルの認知」,応用哲学会第一回年次大会)、論文集での発表(「理論間還元と機能主義」,松本俊吉編(仮題)『生物学の哲学論集』)の形で成果となる予定である。 第二の点に関しては、視覚的意識の研究における科学的表現・測定方法・操作的定義の背後を包括的に調査し、それらの背景となる暗黙の意識概念と理論的想定を明らかにした。即ち、(1)個別の実験的研究が異なる意識概念を想定しており、(2)その結果、不整合な神経基盤の結果が発生しており、(3)意識的状態と無意識的的状態は、連続的な遷移にあるとみなすことで、意識概念と神経基盤の理論を整合的に再構築できると提案した。これらの研究結果は、学術雑誌での発表(「現象性へのアクセス」,哲学論叢,35)、国内学会での口頭発表(「脳のドラフトとワークスペース」,日本科学哲学会第41回大会)、国際学会での口頭発表('Theorization and Attribution of Consciousness',CUNY Cognitive Science Symposium)の形で成果となった。
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