研究概要 |
本年度の実験では,他者の感情状態を推測する能力(感情的な心の理論)と他者の信念を推測する能力(認知的な心の理論)が資源分配状況における行動,そして不公平な分配に直面した際の行動にどのような影響を与えるかを調べることを目的とした.資源分配状況における分配行動の測定には,ultimatum gameと呼ばれる経済ゲームを用いた.ultimatum gameは分配者と受け手の二名一組で行う.はじめに,分配者は実験者からお金を受け取り自身と受け手との間でどのように分けるかを決める.その後,受け手は分配者が決めた分け方を受け入れるか拒否するかを決める.受け手が受け入れた場合,両者は分配者が決めた通りのお金を受け取ることができるが,受け手が拒否した場合,両者は何も受け取ることはできない.このようなゲームをペアで1度だけ行った.感情的な心の理論の測定にはDenhamによる感情的他者視点テスト(affective perspective-taking test),認知的な心の理論の測定には誤信念課題(Sally-Anne test)を用いた.実験の結果,認知的な心の理論は分配者による分配行動を促進していたが.感情的な心の理論は分配行動に影響を与えていなかった.また受け手の行動に関しては,認知的な心の理論は受け手による不公平な提案の拒否を抑制していたが,感情的な心の理論は拒否行動に影響を与えていなかった.本研究は,他者の信念を推測する認知能力は,公平分配行動において重要な働きを持つこと,そして,他者の感情状態の理解は重要ではないことを示している.
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