本研究は、近代化の影響を受容する過程において、モーケンの移動・空間がどのように変化してきたのか、またそれは彼ら彼女らが認識する生活世界にどのように反映されているのかを明らかにするものである。具体的には、(1)モーケンをとりまく自然環境とその利用形態、(2)モーケンが認識するリスク、(3)モーケンが認識する生活域の変遷の地図化という三つの研究テーマを掲げている。研究をすすめるにあたって「移動」及び「空間」両概念に着眼し、GIS(地理情報システム:Geographic Information System)とGPS(全地球測位システム:Global Positioning System)を応用して研究課題に取りくんできている。本年度は、研究テーマに掲げた(1)モーケンをとりまく自然環境とその利用形態を明らかにするための調査を集中的に実施した。また、(3)モーケンが認識する生活域の変遷の地図化に関する予備的な調査を行った。本年度にすすめてきた研究内容は以下の三点に集約される。(a)タイ王立測量局(Royal Thai Survey Department)に赴き、アンダマン海域の地図を収集した(b)調査対象地域の悉皆調査とモーケンへの聞き取り調査を実施した。(c)スリン諸島及びプラトーン島周辺域におけるモーケンの移動を、GPSで位置(点)データ収集を行った。(a)に関しては、アンダマン海域の紙地図のみならず、デジタル化された地図を購入した。(b)に関しては、スリン諸島において悉皆調査を実施し、ライフストーリー手法を用いた調査を行った。(c)に関しては、モーケンが乗る船に同乗し、魚介類を採捕する場所を同定するためにGPSを用いてデータを収集した。海域だけでなく、彼らが船の建造や修復を行う際に木材伐採をする場所へも同行し、位置(点)データの収集に専念した。今後、これまでに収集した点データを、GISで解析する必要があるが、本年度の基礎的研究により、人文社会科学と自然科学の両分野を視野に入れた研究の可能性を示すことができた。
|