α-ヒドロキシカルボニル化合物は、生理活性化合物に多く見られる基本構造であり、天然物合成においても有用な合成中間体であるため、様々な反応手法が開発されてきた。その多くは事前にカルボニル化合物をエノールエーテルやエナミン、エノラートに変換した後、不斉酸素化反応を行っている。資源を節約し、廃棄物を減らすというグリーンケミストリーの観点からも、直截的なカルボニル化合物の不斉酸素化反応が望まれている。一方、有機分子触媒は、遷移金属触媒に比較して、安価であり、毒性が低く、温和な条件で反応が進行する、などの利点があり、近年注目を集めている。これまで有機分子触媒であるプロリンなどを用いてカルボニル化合物の直截的な不斉酸素化反応が報告されているが、アミノオキシル化やヒドロキシル化反応に限られていた。そこで私は、ラジカル開始剤として知られている過酸化ベンゾイルを用いたアルデヒドの直截的不斉ベンゾイロキシル化反応の開発を行った。本反応は広く使われている保護基であるアシル基が一段階で導入でき、得られる生成物が、安定であり、合成化学や生物化学において重要な様々な合成中間体に変換が可能であることから、有用な反応である。最初に、ピロリジンを触媒として3-フェニルプロパナールとBPOを反応させたところ、アルデヒドの酸素化体を得ることができたが、収率は10%と低いものであった。そこで添加剤の検討を行い、ハイドロキノンを触媒に対して等量加えることによって収率が向上することを見出した。さらに、光学活性な2-トリチルピロリジン触媒を新規に開発し、これを用いて反応を行ったところ、高い収率、エナンチオ選択性で生成物を得ることができた。
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