研究概要 |
平成21年度はモデル樹木として,世界各地の熱帯および温帯において広く植林が行われているアカシア2種とユーカリ5種を対象として,メタン放出速度を決定する生物学的要因の検討を行った。その結果,対象とした7樹種のメタン放出速度は葉の含水率と正の相関,LMA(Leaf mass per area,比葉重)と負の相関を示した。なお,これら2つのパラメータのうち,LMAとメタン放出速度の関係の方がより高い相関を示した。一般にLMAが大きい葉は,厚く,細胞が密に配置される傾向にあるため,葉内のガス拡散抵抗が大きくなる。したがって,本研究のアカシア・ユーカリにおいても,LMAの大きい葉では,葉内のメタン発生部位から大気へのメタン拡散抵抗が大きいために,メタン放出速度が低下した可能性がある。なお,葉の窒素濃度とメタン放出速度の間には明確な関係は認められなかった。これは「好気的メタン放出は酵素反応によるものではない」という,これまでの指摘を指示するものであった。これらの成果は投稿論文としてまとめ,国際学術誌に投稿中である。また,アカシア・ユーカリで得られた結果を踏まえ,昨年度行った人工気象室で育成したオノエヤナギのメタン放出に対するCO_2付加と土壌への窒素付加の実験結果について同様の解析を行った。その結果,アカシア・ユーカリと同様に,含水率とメタン放出速度の関係には正の相関が認められたが,LMAとの間には明確な負の相関は認められなかった。このような違いが生じた原因の1つとして,メタン放出速度の評価方法の違い(アカシア・ユーカリは暗条件,オノエヤナギは明条件)が挙げられる。いずれにしても,平成21年度の研究では,葉からの好気的メタン放出速度を決定する生物学的要因として,含水率およびLMAは重要な役割を果たしているという事を,世界で初めて発見した。この発見は,本課題の最終目的である,好気的メタン放出の広域的なリスクの評価において重要な指標になると考える。
|