研究課題
本研究の目的は、近年の経済学における公正研究の背後にある進化・適応的観点を導入し、これまで公正性の追求という同一原理として捉えられてきた公正行動に、複数の適応基盤が存在することを示し、公正行動の領域特定性という新たな視点を、社会心理学の公正研究に導入することにある。いくつかの研究を通して,公正行動には、交換場面での悪評を避ける"一般交換システムへの受容"、行動の一貫性を保つことで他者からの搾取を防ぐ"コミットメント問題解決"の少なくとも2種類の異なる適応基盤が存在する可能性を指摘することを試みる。平成21年度は、不公正他者に対する利他的罰行動(altruistic punishment : Fehr & Gachter, 2002)が、いかなる場面で適応的意味を持つか-罰行動は他者との相互作用場面で利益を見込める行動であるかどうか、見込めるならばいかなる場面で見込めるのか-を探索する目的で研究に着手した。具体的には、不公正是正の罰行動の行為者が、他者から実際に不公正な扱いをされにくいかどうかを検証することで、罰行動の適応基盤が"将来における他者からの搾取を防ぐこと"にあるかどうかを検討した。その結果、罰行使者は非罰行使者よりも公正な扱いをされやすい傾向にあることが確認され、罰行動の適応基盤として"他者からの搾取に甘んじない評判"を獲得する点が確認された。また、罰行動の進化・適応基盤を検討する予備的研究として、罰行動が"将来における他者からの搾取を防ぐ"という面で利益を得られることで、実際に罰行動を取る戦略が進化可能であるかどうかを、進化的シミュレーションを通して検討した。更に、実証的な研究を進めることが、来年度以降の目標である。
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Evolution and Human Behavior 31
ページ: 87-94
心理学研究 (掲載確定)
Letters on Evolutionary Behavioral Science (掲載確定)
Center for Experimental Research in Social Sciences Working Paper Series 108
Center for Experimental Research in Social Sciences Working Paper Series 109
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 106
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Center for Experimental Research in Social Sciences Working Paper Series 102