当該期における貨幣流通の実態を把握することに努め、記録類を中心に実際の貨幣の使用記事を集積し、分析を進めた。対象とする時期は16世紀後半を中心に時代を設定した。また、経済的中心地たる京都を対象地域とした。その結果、京都における公家や寺社などが著した日記類を中心に事例の発掘を行った。 如上の成果として、今年度は『兼見卿記』を対象とした事例の分析を発表した。それによると、1570年代には既に金が貨幣として用いられていたことを明らかにした。また、金・銀・銭・米が同時に貨幣として流通していたが、その用途にはそれぞれ特徴がみられ、金・銀は比較的高額な取引に、銭は比較的小額な取引に用いられる傾向が見られた。これは、近世における三貨制度の萌芽的現象として理解される。 さらに、京都では1580年代に金が他の貨幣と交換する事例を「両替」と理解されるようになり、この時点をもって貨幣としての確立としたが、一方で銀が主要な支払手段に用いられるようになっており、金の使用は徐々に減少する画期ともなっていたことを指摘した。当該期における経済中心地である京都での貨幣使用実態については具体的に明らかにはされておらず、当該研究による具体的な検討結果の提示は、貨幣流通構造を研究する上で欠かせないものである。 16~17世紀にかけての中近世移行期における貨幣流通事情について、今年度は『兼見卿記』の分析結果を発表したが、そのほか『舜旧記』『鹿苑日録』などの記録類の調査を進めており、その分析結果をなるべく早く発表する予定である。また、天理大学付属天理図書館が所蔵している伊勢御師関係史料の中に、中近世移行期の貨幣流通の様子が具体的に見いだせる史料があることを把握している。この史料は一部が先行研究で使用されているが、未活字のため全貌は不明な点が多く、早急に調査したい。
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