本研究の目的は、木質バイオマスの熱化学変換プロセスにおいて重要な反応の一つである、セルロースの熱分解によるレボグルコサンの生成機構を解明することである。平成21年度は、「塩基性条件におけるα-およびβ-グルコシドからのレボグルコサン生成機構」に取り組んだ。塩基性条件でのグルコシド類からのレボグルコサン生成反応は、熱分解ガス化プロセスにおいて、塩基性触媒を添加した際に進行するほか、工業的製紙過程においても重要かつ基礎的な反応である。この反応では、β-グルコシドがα-グルコシドより著しく高い反応性を有するという興味深い現象が見出されているが、その原因に関する理論的説明はなされていない。そこで本研究では、α-グルコシドとβ-グルコシドからのレボグルコサン生成反応の理論的解析を行った。その結果、β-グルコシドからのレボグルコサン生成反応では、その遷移状態がアノマー効果により著しく安定化されるが、α-グルコシドの場合は、このような安定化作用がほとんど存在しないことが明らかになった。また、この安定化作用は5~6kcal/molと見積もられ、α-グルコシドがβ-グルコシドの反応性の差の半分以上を占めることが明らかになった。本結果により、上述のα-グルコシドとβ-グルコシドの反応の相違を合理的に説明することが可能となった。以上の検討により得られた化学的知見は、木質バイオマスの熱分解ガス化および製紙過程におけるプロセス制御に有用であると期待される。なお、以上の結果は、アメリカ化学会のJournal of Organic Chemistry誌に平成22年5月中に投稿予定である。
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