いくつかの原生生物において、捕食した藻類を短期間細胞内に保持し、一時的な葉緑体として使うことが知られている。この一時的な葉緑体のことを盗葉緑体(クレプトクロロプラスト)と呼ぶ。この盗葉緑体を持つ状態は葉緑体獲得へ至る中間段階であると考えられており、盗葉緑体を持つ生物を研究することは細胞内共生による葉緑体獲得過程を理解する上で重要である。私は、この盗葉緑体を持つ未記載種の渦鞭毛藻Amphidinium sp.を研究材料に盗葉緑体の起源を探索することを目的とした。さらに、本渦鞭毛藻の盗葉緑体の起源はクリプト藻Chroomonas属藻類であることが私の先行研究でわかっているが、Chroomonas属の分類が遅れており、盗葉緑体の起源を種レベルで同定することが困難であったため、Chroomonas属の分類を整理することも目的とした。 単細胞PCR法を用いて、本渦鞭毛藻の葉緑体コードpsbA配列を取得し、これをDNA Data Bank of Japan(DDBJ)に登録されている他のChroomonas属藻類の配列とともに手動でアライメント後、最尤法による分子系統解析を行った。また、本渦鞭毛藻の細胞を固定後、超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡観察を行った。結果、本渦鞭毛藻の盗葉緑体の起源となった藻類は(1)C.placoideaやChroomonas sp.(AMAMI)と近縁なChroomonasであること、(2)2重チラコイドラメラがまっすぐにピレノイドへ陥入するChroomonasであることがわかった。また、現在までに微細構造的な分類形質が明らかになっていなかったChroomonas属において、葉緑体のピレノイドへのチラコイドの陥入パターンが分類形質になりうることを示すことに成功した。
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