いくつかの原生生物において、捕食した藻類を短期間細胞内に保持し、一時的な葉緑体として使うことが知られている。この一時的な葉緑体のことを盗葉緑体と呼ぶ。この盗葉緑体を持つ状態は葉緑体獲得へ至る中間段階であると考えられており、盗葉緑体を持つ生物を研究することは細胞内共生による葉緑体獲得過程を理解する上で重要である。本研究の平成21年度の目的は、1)盗葉緑体を持つ未記載種の渦鞭毛藻Amphidinium sp.の記載論文執筆、2)盗葉緑体を持つGymnodinium acidotumの盗葉緑体の起源の探索、3)盗葉緑体の起源となったクリプト藻Chroomomas属藻類の系統分類をする事である。1)に関しては、論文をほぼ完成させるに至った。2)に関しては、G.acidotumを採集する事ができなかった為、その起源を突き止めるに至らなかった。3)に関しては、国内外の株保存施設から新たにChroomonas属藻類培養株とこれに近縁なHemiselmis属藻類を分譲依頼し、細胞の透過型電子顕微鏡観察を行った。さらに18S rDNAによるChroomonas属及びHemiselmis属藻類の分子系統解析も行った。系統解析の結果、Chroomonas属藻類は属内において、高いブートストラップ値で支持される5つのクレードを形成することが示唆された。また、電子顕微鏡観察の結果、クレード毎にピレノイドへのチラコイド陥入パターンが異なることが明らかとなった。また、近縁なHemiselmis属においてもChroomonas属と同様の複数のチラコイド陥入パターンが観察された。これらの観察からピレノイドへのチラコイドの陥入はChroomonas属とHemiselmis属の共通祖先で獲得されたことが示唆された。しかし、チラコイドの陥入形態のみによる分類は困難であるため、今後更なる分類形質の発見が必要である。
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