本研究の目的は、フレーゲの論理主義を、現代の数理論理学の諸成果に照らして、再構成することである。この目的のもと、20年度は、次の2つの別のトピックについて研究を行った。 まず、「フレーゲ構造の理論」。フレーゲの論理主義の再構成には、彼の論理体系に含まれる素朴集合論を、ラッセル・パラドクスから救い出すことが欠かせない。そのひとつの救済策候補が、P.アクセルが考案したフレーゲ構造の理論である。フレーゲ構造とは、型なしラムダ計算のモデルの一種であり、素朴集合論の無矛盾な定式化の一種である。さらに、そのモデル構成の手順を詳しく追ってみれば、それがフレーゲの『算術の基本法則』における、いわゆる文脈原理に基づいた意味論と親近性をもつことがわかる。以上、文脈原理の詳細な再定式化と、フレーゲ構造の紹介、および両者の比較を論文にまとめ、発表した。 次に「シークェント算による論理」。現代の証明論では、シークェント算の枠組みの上で、特に部分構造論理と呼ばれる非古典論理の研究を通じて、古典論理の成り立ちをよりきめ細かく分析できるようになっている。その研究路線の中でも、特にG.サンビンらが提示した「反映原理」は、論理定項の意味とその起源に関して、統一的かつ説得的な説明を与えてくれる。近日発表予定の論文において、部分構造論理の研究路線と、その成果としての「反映原理」の内容についてサーベイした。また、この反映原理というアイディアは、フレーゲ論理学の独特の特徴を理解するためにも応用できる。それについては、4月25日の応用哲学会において発表する予定である。
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