研究課題
社会性昆虫の分業は同じゲノム情報を持つコロニーメンバーがそれぞれカースト特異的な行動を示すことによって成り立っている。このカースト特異的な行動の獲得の背景にはカースト分化に伴う神経改変の存在が予想される。本研究では兵隊シロアリの防衛行動をカースト特異的行動のモデルとして用い、その背景にある神経改変メカニズムを解明することを目的とした。本年度は、「研究実施計画」に基づき、昨年度から引き続いた兵隊分化中の神経系における発現上昇遺伝子の解析を完了させた。この解析では、兵隊分化過程の脳神経系ではニューロンの形態変化に関する遺伝子発現が上昇していることが明らかになった。これらの因子は神経ネットワークをワーカー型から兵隊型に改変することで兵隊の行動分化に寄与していると考えられる。これはシロアリの分業メカニズムに分子基盤に迫る上で画期的な試みであり、この結果は国際誌BMCgenomicsへの採録が決定している(Ishikawa Y et al.2010)。さらに本年度は、攻撃性を司る候補因子である生体アミン(オクトパミン、セロトニン)の機能解析の基盤構築のため、シロアリにおける攻撃性アッセイ系を立ち上げた。この立ち上げの過程で、兵隊、ワーカー、補充生殖虫の攻撃性を定量したところ、兵隊はどのカーストと随伴しても攻撃性が高く、補充生殖虫はどのカーストと随伴しても攻撃性が低いのに対し、ワーカーの攻撃性はどのカーストと随伴するかによって変化することが明らかになった。つまり、ワーカーは周囲にいるカーストによって攻撃性を柔軟に変化させ、兵隊の不在時にはコロニーの防衛を積極的にになうと考えられる。またこの結果は、ワーカーが他個体のカーストを認識する何らかの機構を持っていることを示唆している。
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BMC Genomics (in press)
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http://noah.ees.hokudai.ac.jp/%7Emiu/miura_lab_japanese.html