1.研究の具体的内容 7月〜8月、3月の長期滞在を中心に、滋賀県近江八幡市において、フィールドワークを実施した。特に、今年度のフィールドワークでは、東京・大阪などに出店を持つ近江商人の本宅・分家・別家を中心に聞き取り・古文書調査を行い、本店と別家の関係や、別家同士の関係などを明らかにした。 また、「店向」「奥向」と呼び分けられるような、商家が店として行う行事と家の内部でおこなう行事の関係について調査し、家と世間の関係について明らかにした。 2.研究の意義 これまで、商家といえば家と経営が未分離の状態を前提として議論されてきた傾向かあるが、「店向」「奥向」ふたつの記録や儀礼を使い分けていることや、本宅と出店の屋号を使い分けている状況などから、経営の部分の明らかな分離がみられる。とはいえ、完全な分離ともいえない状態で、商家の側で戦略的に経営組織としての部分と家の部分を使い分けていると理解することができるだろう。それは、民俗学のみならず経営史学などの諸分野においても研究の進んでいない部分であり、その点をフィールドワークから明らかにしえた点で、有意義なものといえる。 3.課題 次年度以降は、これまで調査をおこなった福岡県柳川市、千葉県香取市の事例と比較を進め、商家と世間との関係に着目しつつ老舗を評価する世間との交渉について明らかにする。
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