本研究課題は、「古典新星」や「スーパー軟X線天体」といった、白色矮星連星系から放射されるX線を詳細に分光観測する事で連星系の進化を解き明かそうというものである。宇宙にある天体の多くは連星系を成しており、これらは白色矮星のみならず宇宙全体を解明するための重要な手がかりとなる。しかし、これらは突発現象であるため観測が難しく、特に衛星を用いるX線の観測結果はほとんど存在しなかった。本研究を成功させるには、いかにして貴重な観測データを得るかという点が重要となる。そこで我々は、世界中の研究者や観測者と協力して、衛星により突発天体の観測データを効率よく得る手法を築いた。一昨年より、米国の「スウィフト」衛星を主体とする古典新星チームからも共同研究の招待を受け、本年度も引き続き協力して白色矮星連星系の観測に取り組んだ。結果として本年度は、(1)一昨年に爆発を起こした「2008年はくちょう座第2新星」の観測データを詳細に解析し、過去類を見ないK殻鉄輝線の振る舞いを発見した。爆発前に存在した鉄輝線が爆発直後に消失、その後また明るくなるという挙動を発見し、これは爆発後の連星系において質量交換が始まった時期を特定する明確な証拠となった。これらの結果は査読付き論文として日本天文学会欧文研究報告誌(PASJ)に投稿、即座に受理が決定した。(2)日本の「すざく」衛星を用いて、「2007年さそり座新星」という古典新星の観測に成功した。本観測では、飛び散ったガスによるプラズマからのX線を検出、詳細な分光が可能となる貴重な観測データを得た。(3)本研究で得た観測データから、「古典新星」および「スーパー軟X線天体」についてまとめた博士論文を提出した。これらの成果は、積極的に学会・研究会で発表した。論文の内容および申請者自身も高く評価され、専門誌の査読や国際研究会での招待講演、セミナー等の依頼を数多く受けている。
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