研究概要 |
量子化学的な裏づけがあるマルチカノニカルab initio分子動力学法を用いて,従来より多くのアミノ酸残基間相互作用および溶媒としての水が存在する時のアミノ酸の自由エネルギー地形を求めることによって,既存の古典力場の信頼度を表す指標を提案する.古典力場の評価は従来,Protein Data Bank等の実験と矛盾がないかどうかや,実際にシミュレーションを行ってみて天然構造へ到達するかどうかなど主観的な要素が大きかったが,本研究が行おうとしている評価方法は,量子化学に基づく第一原理的な指標を導入する客観的なものである. 本年度は周りに十分な量の水を配置したアラニンジペプチドのマルチカノニカルのab initio QM/MM分子動力学計算を1ns行い,対照実験として行った気相中の結果と比較し,水が及ぼす効果について議論した.また,これらの計算によって得られた自由エネルギー地形を広く使われている古典力場AMBER ff99およびff99SBと比較した.AMBER ff99力場は本研究の対象と同じアラニンジペプチドをモデルに設計されているのにもかかわらず水中での自由エネルギー地形は本研究によるものと大きく異なり,実験でも観測されていない構造が最安定となった.一方でAMBER ff99SB力場はモデル分子がアラニンテトラペプチドに変わっているが,本研究とほぼよい一致を示すことがわかった. 気相中のアラニン・グリシン・セリンを含むテトラペプチドについてはマルチカノニカルポテンシャルを決定し,解析に使用する分子動力学計算を開始した.また,自作したプログラムを改良し,高速化を実現した.
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