腎臓の近位尿細管は、糸球体濾過後の原尿からの生体必須物質の再吸収および、薬物の尿中への分泌を担う器官として重要視されながら、その機能を反映する分子生物学的指標が不足しており、臨床的にも重要な問題点として位置づけられている。本研究は、ラット腎組織よりviableな状態で単離した近位尿細管を用いて網羅的遺伝子発現解析を行うことにより、尿細管障害進展の分子メカニズムを系統的に解明し、新たな尿細管機能マーカーの特定に繋げることを目的とする。 単離近位尿細管を用いた遺伝子発現解析腎摘出処置1、2、4、8週間後の単離近位尿細管を用いて、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った結果、各病期においてそれぞれ特徴的なGene ontologyを持つ遺伝子群を抽出るすことができた。特に、腎摘出早期における細胞増殖関連の遺伝子に着目し、リアルタイムPCR法を用いて残存腎でのmRNA発現を確認したところ、2種の遺伝子がマイクロアレイの結果とよく一致した。また、増殖阻害剤投与により2種のmRNA発現はコントロールレベルにまで低下していることが明らかとなり、代償期において近位尿細管に発現するこれら2種の増殖調節遺伝子が重要な役割を果たすことが推察された。 尿中低分子化合物の測定系の構築腎摘出2、10週間後およびコントロールラットの膀胱尿を用いてLC-TOF-MSによるメタボローム解析を行ったところ、約2200化合物を検出することができた。腎摘出2週間後のみで5倍以上上昇するもの24種を代償期の尿中マーカー候補として抽出した。多くは未知化合物であったが、化合物が特定されており標品が入手可能なもの、比較的Log P値が小さく尿中に出現する可能性の高いものなどを中心にLC-MS/MSを用いた測定系の確立を行なった。
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